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1すべりにくいので安全・安心

家庭内での不慮の事故による死者数は、2018年で14,984人に達しており、この数字は交通事故死者数(3,532人)の約4倍となっています。そのうち2割近くが「転倒・転落」による死者数で、なかでも「同一平面上のすべりやつまずき」が「転倒・転落」の過半数を占めています。特に近年では、80歳以上の高齢者の比率が高まっています。[図1]
また、家庭内の事故の発生場所については居室が最も多く、65歳以上では階段の危険性が高くなっています。[図2]

すべりにくいので安全・安心 図1 すべりにくいので安全・安心 図2

カーペットはすべりにくい床材

「すべる」とは[図3]のように、水平力が抵抗力よりも大きいときに起きる現象で、逆に抵抗力が大きい場合は、すべりにくく転倒しにくいということになります。
[図4]は、主な床材のすべり抵抗値を表しています。普段の生活で最もすべりやすい、靴下を履いた状態で比較したところ、カーペットは安全の許容値を大きく上回りました。これは踏み込んだとき一時的にへこみが生じ、それが引っ掛かりとなって抵抗力が大きくなったと考えられます。

すべりにくいので安全・安心 図3
すべりにくいので安全・安心 図4

2転倒時に衝撃を吸収してくれる

私たちは日常、家の中で段差につまずき転倒することが多々あります。バリアフリー化が進む現代においても、転倒によって亡くなる方の過半数が「同一平面上のすべりやつまずき」による死亡であることから、床材の種類や性能が大きく影響しています。
また、転倒の際に加わる肘や膝、頭部などへの衝撃の大きさが要因となり、硬い床材ではケガや死亡に至るケースも多く見られます。
特に小さな子どもや高齢者では体に与える影響が大きいことから、衝撃を吸収してくれる床材選びが大変重要です。では、どのくらいの衝撃力(反発する力=G値という)を床から受けているのでしょうか。

転倒時に衝撃を吸収してくれる イメージ

カーペットは衝撃を和らげる効果が大きい

人間の頭部モデルを床面(下地:コンクリート) 20cmの高さから落下させたとき[図1]、 重力の何倍の衝撃力を床面から受けるのかを数値化(G値)したものが[図2]で、値が小さい床材ほど衝撃力を緩和してくれます。 測定の結果、多くのカーペットは、安全性の目安であるG値100以下であることが分かりました。前頁で述べたように、カーペットはすべりにくく転倒しにくい床材ですが、仮に転倒しても衝撃を和らげてくれることから、安全性の高い床材であるといえます。

転倒時に衝撃を吸収してくれる 図1

また、上智大学などと共同で転倒衝撃の人体頭部への影響をみる初めての研究を行い、頭蓋骨骨折の発症リスクを評価しました[図3]。評価指標は、頭部障害基準値(HIC値)というもので、数値が小さいほど安全であることを示します。この基準は、自動車分野などでもよく利用され、HIC値1000以下が一般的に安全といわれています。転倒姿勢にも大きく影響されることから、ここでは「つまずき」姿勢を例にとって評価しています。 結果、カーペットの衝撃吸収効果は、安全性の目安である1000を大きく下回りました。

転倒時に衝撃を吸収してくれる 図2 転倒時に衝撃を吸収してくれる 図2

3素足でも気持ちいい

高齢化が進むなか、ヒートショック(32~33頁参照)による心筋梗塞や脳梗塞、脳卒中が増えています。浴室やトイレなど居室との室温差が大きい空間ばかりでなく、寝室や居間などでも、足の裏が床に接触した時の足裏温度の低下により、血管の収縮などを引き起こすケースが多くみられます。特に日本人には、欧米人と違って靴を脱いで床に座る、という生活様式があり、足元が暖かいというのは健康面で非常に重要な要素となっています。
フローリングやプラスチック系床材の上を素足で歩いたときに足裏がヒヤリとした感じを受けますが、この指標を「接触温冷感」といいます。足の裏の皮膚の持つ熱が床に逃げるため、瞬間的に皮膚温度が下がって起こる現象です。

カーペットの「気持ち良さ」には、
パイル内部にある、熱を逃がさない空気層が大きく関わっています。
熱を逃がさない空気層

床暖房とカーペット

床暖房システムには、フローリングと一体になったものが多く、その上に「床暖房対応」のカーペットを敷くことで、座ったり寝転んだりすることができ、より暖かさが実感できます。カーペットを敷いた場合には、はじめのうちは暖かさを感じるのに若干時間はかかりますが、電源オフ後は逆に冷めにくくなります。
床暖房の種類によっては、「カーペット不可」のものもあるので、表示を確認しましょう。

空気層が肌にやさしく、冷たさが伝わりにくい

素足でも気持ちいい 図1、図2

空気を多く含むカーペットは熱伝導率が小さいため[図1]、肌で感じる「接触温冷感」は温かく、足裏の温度低下の幅が最も小さい床材です[図2]。繊維内に隠された空気層が断熱材として働き、熱を逃がしにくくしているのです。

素足でも気持ちいい 図3

4ホコリの舞い上がりは10分の1

部屋の大半のホコリ(ハウスダスト)は、衣服や寝具類から発生するものが多く、細かいものでは、一度空中に舞い上がると8時間以上も浮遊した状況が続きます。ホコリにはアレルギー症状を引き起こす要因となるダニやカビなどの微生物も含まれ、放置しておくと細菌やウイルスが増殖して「病原ホコリ」となり、感染症などを引き起こす恐れがあります。できるだけ舞い上がる量を少なくすることが、快適で健康な暮らしへの第一歩となります。そこで、多くのご家庭で使用しているフローリングとカーペットとの場合で、舞い上がり方や量にどのような違いが見られるかを調べるために、実際に歩行し映像化してみました。[図1]

ホコリの舞い上がりは10分の1 図1

フローリング(写真右)の場合では歩行後に大量のホコリ(緑に光っている部分)が舞い上がっているのに対して、カーペット(写真左)では、ほとんど浮遊するものが見当たりません。カーペットには繊維内部にホコリを取り込む特性=ダストポケット効果があり、キャッチして放さないために舞い上がりにくいのです。デパートの貴金属売場でカーペットがよく使われる理由の一つは、こうした効果を利用し、ガラスショーケースに付着するホコリを抑えるためです。

ダニアレルギーを抑える効果

次にハウスダストの舞い上がる量を、床面から50cm(乳幼児の頭部の高さ)と140cm(大人が立ったときの口元の高さ)の位置で調べた結果[図2]、ともにカーペットはフローリングの約1/10であることが分かりました。こうした特性は、床面だけをこまめに掃除することで室内をキレイに保つことができ、ダニによるアレルギーの発生を抑制できることから、カーペットは健康的な空間づくりに大きな力を発揮する床材といえるでしょう。

ホコリの舞い上がりは10分の1 図2

5ストレスを緩和してくれる

ホテルはカーペットが醸し出す、上質で快適なインテリア空間も魅力のひとつです。踏み心地が良く、静かで照明の反射も少ない居心地の良さ、すべりにくいことから自由にフロアを歩ける安心感、そして楽しく彩りのある空間の演出など、カーペットは人の心を落ち着かせ、リラックスさせる床材なのです。

このような心理的な感情は、人間の脳波に現れます。人間の脳波には、α(アルファ)波、β(ベータ)波などがあり、α波は、人がリラックスしているときに現れ、β波は緊張しているときに現れます。[図1]の実験結果から分かるように、カーペットの上を歩くときにはα波が多く現れるので、まさしくカーペットが敷かれたホテル空間は、ストレスを緩和してくれる理想的な環境であるといえます。

カーペットが敷かれたホテル空間は、ストレスを緩和してくれる理想的な環境
脳波と心理状態

リラックス効果がストレスを抑える

三重大学大学院と共同で、カーペットとフローリングの上を歩行した際に現れるα波の含有率を測定する実験を行いました。各床材を約12帖の部屋に敷きつめ(カーペットはカットパイル:パイル長5mm、フローリングは厚み10mm)、男女42人にそれぞれの部屋を10分間ゆっくり歩いてもらい、歩行後の脳波を測定したところ、約7割の人がカーペットを歩いた方がα波が見られ、数値も高いことが分かりました。[図1]
カーペットはリラックス効果があり、かつストレスを和らげる床材であることがデータからも実証されました。

ストレスを緩和してくれる 図1

6足が疲れにくい

スーパーマーケットのレジ係員の足元や、住宅のキッチンの床に、カーペットマットが敷かれている光景をよく見かけますが、これは、長時間の立ち仕事でも足が疲れないようにするためです。なぜ疲れにくいかについては、「2.転倒時に衝撃を吸収してくれる」でも触れていますが、足元にかかる体重が繊維の表面が変形する力によって吸収され、疲れの要因となる反発力が抑えられているためです。また、カーペットには柔らかさも備わっているので、フローリングや硬質床材に比べ足元への負担を軽減してくれる床材だといえます。
5.ストレスを緩和してくれる」で紹介している脳波測定の後に、「疲労度」や「リラックス感」に関する官能検査を行い、5段階評価をしてもらった結果、[図1]のように、カーペットはフローリングと比較して、「疲れを感じない」や「歩行時安心な」などの得点が高くなりました。

足が疲れにくい 図1

適度な柔らかさで負担を軽減

東京工業大学の小野研究室で考案された、床材表面の「柔らかさ」を評価する方法(1987年)に基づく実証試験を行いました。[図2]は床材の変形や復元の程度より、 床の柔らかさを数値化し、被験者の感覚(快適感や疲労感)との相関をみることで、床の歩行快適性を評価した結果です。
各種床材での官能検査の評価から、「住宅の居室」「公共の建物」などを想定した場合の履物での「柔らかさ指数」を求めたところ、カーペット類(ニードルパンチを除く)は、ほとんどの建物において適している「適切範囲内」であることが分かります。

足が疲れにくい 図2

7静かな歩行音でトラブル解消

トラブルの第1位は「騒音」

近年、集合住宅では「音」に関するトラブルが最も多くなっています[図1]。マンションや団地などに住んでいる場合は、しっかりとした対策を講じる必要があります。上の階から発生する音に悩ませられたり、自らも階下に影響を与えたりと、知らぬ間に大きなトラブルへと発展してしまう危険性もあります。トラブルのリスクを軽減し、自身の暮らしのストレスを抑えるためにも、周辺の住人に配慮した床材選びは大切です。

トラブルの第1位は「騒音」
静かな歩行音でトラブル解消 図1

階下に伝わる衝撃音には、子どもが飛び跳ねたときに聞こえる「重量床衝撃音」と、スプーンなどを落としたときの「軽量床衝撃音」に分けられます。前者への対策には、建物構造の改良が必要で、床仕上げ材では解消できませんが、後者は、カーペットを敷くことで改善することができます。
右の[図2]は、床衝撃音低減のメカニズムを表しています。カーペットの構造は、表面が空気を含んだ繊維の層であるため、床に与えた衝撃音の一部が吸収され、発生音や階下に伝わる音を低減してくれます。

静かな歩行音でトラブル解消 図2

階下にも室内にもやさしい

どのような床材を敷けば、階下に伝わる音がどの程度改善されるかを表したのが[表1]です。例えば、ウールカットカーペット(全厚9mm)なら、階下では、「スプーンの落下音がかすかに聞こえる程度」にまで低減することができます。
またカーペットでは、パイル素材の種類よりもパイルの長さやアンダーフェルトの有無が大きく影響します。

静かな歩行音でトラブル解消 表1

※この等級に関しては、従来からの空間性能を推定した等級表示(推定L値)と、2008年に改訂された部材単位の等級表示(ΔLL等級)を併記しています。従来表示から新表示への置き換えは、おおよそ上表のように対応しています。
※日本建築学会では、「軽量床衝撃音」を低減するレベルについてランク分けしています。性能としての等級のうち1級以上を推奨しています。

室内も静か(低発音性能)

カーペットは階下だけでなく、椅子やテーブルの引きずり音なども低減され、静かな室内環境を得ることができます。例えば、ウールカットカーペット(全厚9mm)を敷くことで、木質フローリングと比較すると発生音が10~15デシベル※ 下がり、感覚的には音の聞こえ方が半分程度となります。

8照明の反射を抑えて眩しさ解消

照明は、私たちの暮らしに必要な明るさや心地よさを与えてくれます。最近では省エネ効果の高いLED化が進み、暮らし方や用途に応じた様々な種類の照明が発売されています。
一方でLEDや間接照明のある空間は、内装の素材や色によって反射などの影響を受けやすく、慎重なもの選びが欠かせません。よく磨かれたフローリングなどは光の拡散が小さく反射光が集まりやすいことから、それが眩しさとなり、目の疲れや肩こり、ストレスの原因となります。

フローリングの光の反射

間接照明やダウンライトにはカーペットが最適

そこで、床材にどの程度照明が映り込むかを実際の空間で検証しました。結果、カーペットでは間接照明においては柔らかい光のグラデーションとなり、また天井からのダウンライトとLEDベースライトでは、ギラギラとした映り込みがありませんでした。これは繊維内部で起こる光の乱反射や吸収により目で光が確認できないためです。
照明の明るさを落とすことなく眩しさを抑え、間接照明による雰囲気づくりを最大限に生かすことができるカーペットは、快適な照明環境づくりに最も適した床材だといえます。

ルーパスラグ写真 床別照明反射比較

9勉強に集中できて学力アップ

「カーペットと良質な学習環境との関係」に関して意識調査を実施しました(2011~2013年)。全国の図書館および学習塾を対象に、「カーペットが良質な学習環境の形成に影響するか?」と質問し、計190件の回答を得ました。その結果、「大いに影響ある」または「少しは影響ある」との回答が67%に達しました。[図1]

カーペットが良質な学習環境の形成に影響 67%
勉強に集中できて学力アップ 図1

海外の調査でも・・・

アメリカの公立学校でも同様の調査が行われており、学校教師の約75%が、「教室のインテリア・デザインが良好な学習環境を形成し、生徒の学習レベルを高めている」と回答し、約60%の教師は「カーペットは学習レベルや成績の向上に非常に強い影響を与えている」と答えています。

集中には静かさとリラックス効果が影響

このように、「カーペットは良質な学習環境の形成に影響する」という認識が高いことが分かりました。そこで、科学的な側面から考えてみると、実は、今まで「おすすめする理由」として述べてきたことが、複合的に「集中できること」につながっていると考えられます。

  • 1 ホコリの舞い上がらない、きれいな空気環境
  • 2 リラックスできて、心理的に落ち着いた環境
  • 3 歩行音が静かで、生活音が反響しにくい環境
  • 4 光が反射しにくい環境

カーペットを使用するメリットについて、次のような回答がありました。

  • 室内が静かに保たれる 144件
  • 転んでもケガをしにくい 87件
  • ホコリが舞い上がりにくい 56件
  • 雨の日でもすべりにくい 55件

他にも「断熱性」や「落ち着いた雰囲気」など機能性や心理的な効果の高さについての回答も多く見られました。このように、カーペット床の教室は、良質な学習環境をつくり、学習レベルや成績向上に良い影響を与えていることが分かりました。

10ペットにとっても安全・安心

住宅ではますますフローリングの比率が高まり[図1]、すべりやすい環境が拡大しています。
その傾向は室内犬にも影響が大きく、身体を支えるために股関節や後肢に大きな負担が掛かり、病気や脱臼の増加につながっています。「室内犬と生活する際の悩み」でも、床のすべりに対する不安が半分以上を占めており[図2]、脱臼や骨折の治療に掛かる治療費が、飼い主にとって大きな負担となっています。
すべり抵抗値が高いカーペットを選ぶことは、そうした不安や負担を軽減し、一緒に暮らす子どもやお年寄りの安全・安心な暮らしにもつながります。

ペットにとっても安全・安心 図1 マンション(モデルルーム)における床材の傾向 ペットにとっても安全・安心 図2 室内犬と生活する際の悩み

ペットと笑顔で暮らせるカーペット選び

イヌやネコと暮らす環境では、汚れやダニ、ニオイも気になるところです。汚れがつきにくいはっ水やダニを寄せつけない忌避効果がある防ダニ、アンモニアや酢酸など排せつ臭のイヤなニオイの成分を吸着(分解)する消臭機能が付いたものなどが、清潔で快適な暮らしの対策に役立ってくれます。また、素材そのものに抗菌や消臭性能があるウールや汚れた部分を外して洗えるタイルカーペットを選ぶことも有効です。
爪の引っかきによるほつれが気になる場合は、ほつれにくいカットパイルを、抜け毛や汚れの取れやすさを優先する場合は、ループパイルのカーペットをおすすめします。ループパイルがほつれた時は周囲と同じ高さに切って、接着剤をしみこませておけば見た目も元通りで、ほつれが広がる心配もありません。
カーペットの特性はさまざま。風通しや掃除機を毎日かけるなど“ひと手間”のやさしさを加えながら、ペットと共に穏やかな時間を過ごしましょう。

ほつれた部分を周囲の毛と同じ高さに切っておけば元通り

爪で引っかいてループカーペットのパイルがほつれたときは、ほつれた部分を周囲の毛と同じ高さに切っておけば元通り。


日本カーペット工業組合「新訂 カーペットはすばらしい」より